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富士山④~地獄の下山~
2009 / 09 / 25 ( Fri )
富士山④、いよいよ完結編です。
まだ①②③を未読の方は、先にコチラをどうぞ。



猛烈な寒さで目を覚ました。
どうやら40分ほど寝ていたらしい。
横を見ると、荒沢さんも神田君もテーブルに突っ伏して寝ている。
俺が起きると、2人もモゾモゾと起きだした。

とにかく寒い。メチャクチャ寒い。
フリースにウィンドブレーカーまで着込んで、しかも休憩所に入っていて、夜も明けたというのに寒い。
あまりの寒さに、体はガクガク震えて、歯までガチガチいってる。

2人がそれほど寒がっていないところを見ると、これは明らかに熱を出している。
疲れと病気がダブルで体を蹂躙しているんだろう。
1足す1は2だと思っていたが、3にも4にもなるという相乗効果で相当な高熱の雰囲気。

トイレに行こうと思って立ち上がろうとするが、足の付け根の痛みも臨界を超えていて本気で立てない。
活殺孔をついても、もはや何ともならない。
トイレは休憩小屋から外に出て、小屋の裏手までいかないといけないのだが、足で立てない以上、俺は小屋の壁にもたれながら手で這っていく始末。
3人で一緒に出た筈なのに、俺が休憩小屋からトイレまでの3分の1も行かない内に、用を足した2人が帰ってくるのだから、俺がいかに死んでいるかが分かるというものだろう。
俺の姿を遠くから見たトイレの番人(お金徴収係)が、「お、おい、アンタ、大丈夫か!?」と声をかけてくるほどだ。
どうやら相当目立ってるらしい。ヤバイ。

トイレ内を這うわけにはいないので、噴死の覚悟で仁王立ち放尿。ざまぁ。
これが大便だったらしゃがむなんて高等技が出来るわけもないから、文字通り糞死したに違いない。

荒沢さん、神田君と合流し、今後の動向を決める。
時刻は既に7時半を回っている。
本当ならここから剣ヶ峰という日本最高地点を目指すところなのだが、俺はおろか既に2人ともグロッキーなので「ヤメ」の決断が下された。
何か俺ばっかり辛いように書いているが、実は荒沢さんも神田君も死んでいる。
目は既に冷凍マグロが腐ったような感じだし、動きはちょっと元気のいいゾンビ程度だ。
というわけで、まぁ剣ヶ峰まで行かなくとも、ここはれっきとした頂上の一部なのだし、それで十分だろうという理屈だ。

8時前。いよいよ下山タイム。
ゾンビ軍団の中でもズバ抜けて腐敗度の高い俺がいる以上、とてもじゃないが3人一緒に降りられないので、下りは銘々のペースで行くという事になった。

「それじゃ、先に降りて車で寝て待ってます」と、言い方はまろやかだが睡眠欲丸出しの神田君。
ままならない体に「ギギギ・・・」と思っていると、何と荒沢さんが「じゃあ、ボクはヨシオくんと一緒に行くよ」と言ってくれた。
荒沢さん、ええ人や・・・。
すると神田君も、「ヨシオさん、何か重いものとかあります?手伝えるならぼくが持っていきますよ」と声をかけてくれる。
か、神田・・・、お前・・・。
2人の優しさに涙しながら、俺は遠慮なく一番重いカメラを神田君に託したのだった。

しかし、こんなコンディションで、今から最低でも3時間はかかるという下りが待っているかと思うとゾッとする。
登山が他のスポーツと大きく異なるのはココだろう。
分かっちゃいるが、降りるのは自分の足で行くしかないのだ。
他のスポーツなら、「こりゃダメだ」と思ったら、その時点で棄権するなりギブアップすればいい。
しかし、登山はそうはいかない。
正直、俺は頂上に来てしまった事を激しく後悔していた。

いよいよ下山開始。
腰掛けていた岩から立ち上がろうとするが、足の付け根が相変わらず痛くて立てないので、また座り直し、また立とうとするが座り直しという滑稽な動作を繰り返す。
周りから見れば、何かアブなそう人が1人でピョコピョコ屈伸運動しているようにしか見えない。
本人は血の汗を流すほど必死なんだが。

こうなると、足の付け根と俺の精神力との我慢比べみたいな感じがしてくる。

「ヌォォォォ!動けぇぇぇぇ、俺の足ィィィィーーーー!」

そしてついに立ち上がる事が出来た。

付け根は痛くて殆ど曲げられないので、腰を前後に振って歩く感じになる。
まぁ、ハサミかコンパスを無理矢理歩かせるとこんな感じになるかもしんない。
歩いていると徐々に躍動感が出てきて、まるでパリコレのモデルみたいな歩き方になってくる。

こんな歩き方で山を下るなんてとてもじゃないが不可能だ。
でもそれが出来たのは、トレッキングポールがあったからだろう。
今回の登山で様々なアイテムを揃えたが、中でもトレッキングポールとサポートタイツ(CW-X)は今後も必須アイテムとなる活躍だ。

時間は詳しく計っていないが、恐らく登りよりも時間をかけて9合5尺を過ぎ、フラフラになりながら9合目に到着。
もう2時間近くも歩いているのに、まだ9合目。何とも暗澹たる気持ちになる。
荒沢さんも、よくイライラせずに後ろから付いてきてくれるものだ。

そして8号目を目指して歩いている途中、限界がきた。
高熱、寝不足、疲れのトリプルミックスで目の前が真っ白になり、思わず手近の岩に倒れこむ。

「せめて熱さえなければ・・・」と思った瞬間、天啓のように閃いた。
何と、俺はこのような時に備え、医者から貰った熱冷ましの頓服を持ってきていたのだ。
何が起こるか分からない高地で、出来るだけヘンな薬は飲みたくないという意識が働いていたので、その存在自体をすっかり忘れていたのだ。

こんな状態になってしまえば、たとえ酸素不足で頓服が化学反応を起こして爆発しても結果は同じで死ぬだけだ。
俺はザックの奥底にしまっていた薬を取り出すと、一気に飲み込んだ。

そして10分後。
初めて飲む薬だからか、それとも気のせいか、酸素不足のせいか、理由はさっぱり分からないが、異様に早く薬の効果が出た。
頭は妙にスッキリし、身体中の痛み(何とあれほど痛かった足の付け根さえも)がウソのようになくなっていた。

やはり頭がボーッとしていたのは高熱のせいだったようだ。
しかも、頭痛薬も兼ねた薬だったので、これが痛み止めとなったと考えられる。
実はあれは頓服じゃなくてヤクじゃないのか?と考えられるほどに回復してきた。

「うおおおおお、西洋医学万歳!!」

こうなるとサッサと降りてしまいたい心情に駆られるが、今度は体力が急回復した俺に代わり、ゾンビ度を高めている荒沢さんがペースを落とし始めていた。
そして、「ううう、足の裏が痛い・・・」と訴え始めている。

ヤクの効果が切れる前に下山してしまいところだが、今までゾンビキングたる俺を介抱しながら一緒に居てくれたのだ。
自分が人間に戻ったからといって、あっさりと見捨てていけるほど人間腐っちゃいない。もっとも、さっきまで腐りきったゾンビだったけどな。
今度は俺が荒沢さんにペースを合わせながらの下山となった。

しかし、ヤクの効果は意外に短く、8号目を過ぎた辺りからは、俺も足の裏が痛み始める。
それでも先程までの痛みに比べればハチに刺された程度。
ハチなら痛いじゃん!と突っ込まれそうだが、さっきまでのジャック・バウアーの拷問に比べりゃかわいいモンだ。

荒沢さんと、「足痛ぇ、足痛ぇ」と妖怪足痛ぇのように呪文を唱えながら、元祖7合目に到着。
時刻は何だか既に昼の12時を回っている。
誰え?下りは3時間とか言ってたアホは!?もう4時間も経ってるっちゅーねん!!
足は痛いし、太陽はギラギラ照りつけるし、寝不足だしで、今思えば結構イライラしていたような気がする。

それに輪をかけるように、下りのやたら早い下り番長に抜かれると超イライラする。
登山道を下っていると、後ろから「ズザザ、ズザザ・・・」とプレッシャーのような音でアオられ、仕方ないから広い場所で止まって先に行かせてあげても、「ありがとう」や「すみません」の一言もなく、猛烈な火山灰を巻き上げ、ズザザザァァァーーー!と人に浴びせていくのである。
この手の輩は、ほとんど登山マナーを知らないガキンチョか、富士山にスニーカーでやってくるようなオッサンだ。
多分、頂上付近の山小屋に泊まっての下山で元気モリモリなのだろうが、こちとらゾンビなんで生者が疎ましいんですよ!元気なアナタが羨ましいんですよ!火山灰かけないで下さい!
もっとも、やたら遅い俺たちの方が、奴らが抜かすまでに浴びせている火山灰の方が何倍も多いだろうけどな・・・。

イライラしながら、ついに新7合目到着。
ここまで来ればもう少しだ!
6合目から駐車場までなんて、あってないようなモンだから、あと1合分下れば終わりだ!

荒沢さんと2人、まるでもう下山したかのような雰囲気に浸りながら大休止。
ちなみに下山は、歩行速度そのものは普通レベルくらいだと思うが、何といっても休憩回数と1回の休憩時間が長い。
一度座りこんでしまうと、なかなか立ち上がる気力がわかないのだ。
それでも、ここまで来ればもう少し。15分ほどの休憩でいよいよ6合目に向かう。

「確か、6合目から7合目って、そんなに遠くなかったですよねー」
「うーん、7合目から元祖7合目までの方が遠かったような気がする」
「じゃあ、さっきまでよりは楽ってことですよね~。良かった良かった♪」

と、呑気に軽口叩いてましたけど、何かさっきより遥かにしんどかったですよ。
6合目から7合目ってこんなに距離ありましたっけ~?と、2人でうめくくらい、最後の1合は長かった。
ブッ倒れるような感覚で6合目に到着すると、ベンチに腰掛けたまましばらく動けない2人。
すぐ下に駐車場があるというのに、「あ~」とか「ふ~」とか言いながら30分以上座っていたような気がする。

トイレに行こうとして、ポケットに突っ込んでいた小銭入れ(巾着袋)を落としていることに気付いた。
トイレのチップ用として、細かいお金を別管理していたのだが、それがアダになったようだ。
ううう、まだ2千円分くらい入っていたハズなのに・・・。
誰か、富士山で謎の巾着袋を見つけた人は、速やかにワタクシにお返し下さい。

6合目から5合目までは、本当に楽勝の道。
最後の道を歩きながら、本当にこうやって無事に降りてこられた事を感謝した。
色んなミラクルがあったが、そのどれもがなければ、こうして無事に下山出来なかったような気がする。
またミラクルもそうだが、神田君がカメラを持って降りてくれたり、荒沢さんがサポート(水を1リットルもくれたし)してくれたり、人の助けが身に染みた山行でもあったと思う。

こうして無事に駐車場で神田君と合流。
昨夜の22時に出発した富士登山は、翌日の15時に幕を閉じた。
登り8時間半、下り7時間の壮絶な旅だった。これはもう、自分の中ではエクスペディションといっていい体験だった。(ちなみにガイドブック的参考時間は、登り5時間、下り3時間です・・・(休憩は含まないけど)。チームで一番早かった神田君は、各々1時間半を引いたくらいの時間だったみたいです。)

最後に富士山を総括すると、まぁ、ここまで苦しんでおいてナニだけど、ハッキリ言ってそんなに難しいモンじゃないです。
特に8合目付近の山小屋に宿泊ということなら、余程天気が悪いか、高山病にでもならない限りイケるんじゃないでしょうか?

但し、我々がやった徹夜での御来光登山はヤバイ。あれはヤバイ。
これが許されるのは、夜型生活に慣れた人か、体力の有り余っている学生くらいと思われます。
ちなみに今回、本当は職場の女性2人が一緒に来るはずだったんですが、親から「そんな無茶な計画ではダメだ!」と反対され断念しています。
今思えば、この親の見識が一番正しかったということに・・・。

んで、たとえどういう日程で登るにせよ、俺のように体調不良で行くのは絶対ダメ。
今回、無事に降りられてきたのは本当に運が良かっただけだと思う。
何度も「ブルドーザー乗せて!」って叫びそうになったし。(富士山は荷物運搬用(と、たまに観光客を乗せて)にブルが動いている)
今回の最大のキーアイテムは熱冷ましの頓服だったけど、他にもトレッキングポールやサポートタイツをたまたま装備していった事に加え、神田君がカメラを持ってくれた事、荒沢さんが水をくれた上にその水を持ってくれた事、どれ1つ欠けても無事に降りられなかったと思います。

そして最後の最後に、初登山で富士山に行くのはヤメましょう。
残念ながら神田君と荒沢さんは、あまり富士山が気に入らなかったようで、もう登山に対して気持ちが萎えているようです。
もっとも、これはこんな強行軍で計画を立てたワタクシに責任があるわけですが・・・。

ワタクシですか?
ええ、ワタクシはまた是非とも登りたいと思っていますよ。
特に山頂では多くの事をやり残していますし、何といっても日本最高地点をまだ踏んでないので。
とはいえ、下山直後の気持ちは、正直「もう登山はしばらくええわぁぁぁ・・・・・」でしたが。



と、言いながらその2週間後は伊吹山に登ってんだから、自分も懲りないなぁと思ったり。

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18:43:08 | 旅行に関する脳内 | トラックバック(0) | コメント(4) | page top↑
富士山③ ~頂へ~
2009 / 09 / 18 ( Fri )
富士山③です。
まだ、①と②を未読の方は、先にコチラをどうぞ。



俺は血の涙を浮かべながらザックを背負うと、9合目に向けて一歩を踏み出した。

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛い

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・痛すぎる

この足の付け根に一体何が起こっているのだ?!
と、叫びたい程の激痛だ。
この痛みに耐えた今、ジャック・バウアーの拷問にも5分は耐えられる自信がある。
それほどの痛みに耐えながら、ただひたすら9合目を目指して歩く。はっきり言ってただのマゾ。
歩くペースは今までよりも更に遅い。それにも関らず、痛い足を庇って歩くので、余裕のあった体力も凄い勢いで削られていくのが分かる。

たまらず途中の山道で小休止を取る。
少し座って水分補給。チョコレートの甘さが身に染みる。

そして立とうとすると、今度は今まで以上の激痛が体を襲う。
CTUの尋問が終わったと思ったら、尋問室にジャック・バウアーが入ってきたような衝撃だ。
その時、俺は痛みの中で理解した。

もはや、今の俺は座ってはいけないのだと。

座って足を休ませると、そのリバウンドで次に動けなくなってしまう。
今後は小休止にしろ大休止にしろ、腰を下ろさないと心に決め、経絡秘孔を突きながら何とか歩き始める。

そして8合目から1時間半。ようやく9合目に到着。あり得ないスローペースだ。
時刻は3時過ぎ。日の出まで2時間を切っている。
山頂での御来光は無理かも知れない。

座れないので、山小屋の壁にもたれながら休憩を取る。
さすがに9合目ともなるとやたら寒い。
データ登山によれば、標高1,000メートル上がる毎に気温は6℃低くなる。
つまり、標高3,500メートルの9合目は、沿岸部の気温より21℃も低い事になるのだ。
これが、真夏とはいえ、夜間の富士山が氷点下になることもある理由である。

そしてこの辺りから急に空気が薄くなった感じがする。
いくら深呼吸しようが全く体力が回復しない。体は既に疲労困憊状態なので、携帯酸素を吸ってみるが、屁の役にも立たない。気休めとはよく言ったものだ。

座れないし疲れるし寒いしと三重苦に加え、眠いし体ダルいし熱っぽいし寒気するし空気薄いし体力回復しないし、でも座れないし疲れるし寒いし眠いし体ダル・・・・・・・・・・・・。

休んでいるとどんどん寒くなってくるので、たまらずウィンドブレーカーの上からフリースを着込む。
ホントなら、フリースを下に着て、上にウィンドブレーカーが普通のはずだが、この時はいちいちそういう着替えをするのが面倒なくらい疲れ果てていたのだ。

そして9合目まで来たら、もう先に行くしかない。
座れないので、休んでいても意味がない。
休むくらいなら、ゆっくりでも一歩一歩、先に進む方がマシだ。

山小屋に宿泊していた人達が一斉に起きだして山頂に向かう。
その人の波にどんどん抜かされる俺。
みんな元気そうで何よりだ。俺はホントに死にそうだけどな。

一体、何百人に抜かれたか知れないが、それでも俺はついに来た。
既に空は白じんでいるが、9合目からタップリ1時間半かけて、9合5尺にやってきた。

オイオイ、8合目から1時間半で9合目に着いたのに、何で同じ時間かけて次は9合5尺なんだよ?
確かに俺のペースが遅くなってるのもあるよ。それは認めるよ。
ワタシもデータ登山野郎ですから、9合の次が9合5尺ってのは知ってましたよ。別に驚きませんよ。
でも、何度も言うけど、明らかに「合」の付け方、おかしいですよね?!
どこの誰ですか、こんな区切り方したアホは?!
お前の時間感覚はどうなってんのかと。これでホンマに等間隔やと思ってんのかと。アホかと。バカかと。これはホントに問い詰めたい。小一時間といわず、一両日中問い詰め続けたい。

・・・・・と、今にして思えば怒りも湧き起こるが、この時はもう何も考えられないくらい疲れ切っていた。
考えていた事といえば、既に空が白んでおりどうやら自分は山頂で御来光を拝めそうにないということに対する悔しさと、とはいえ、この体調とコンディションでよくここまで来たという誇らしさのようなものだった。

しかしこうなれば腹を括らねばなるまい。
疲れ切った脳内でシナプスを繋ぎながら、貯め込んだデータベースを整理する。
俺の記憶が正しければ、富士宮登山口は角度と傾斜の関係上、9合5尺から山頂の間は山の陰に入ってしまい御来光が拝めないはずだ。
逆に言うと、今いるこの9合5尺が、山頂ではないものの最後の御来光ポイントになる。

時刻は既に4時40分。
あと20分で日の出。
既に何かをしようという気力もないが、噴死の勢いで何とかカメラだけは取り出す。

どこかで誰かが、「御来光が始まるよー!!」と叫んでいる。
どこかで誰かが、頂上と9合5尺の間にいる行列の人達を指差しながら、「あの人達は御来光見えねぇなぁ~。」と憐れんでいる。
どこかで誰かが、「キタァァァァァーーーーーーー!!!!!!」と雄叫びを上げている。

そしてそれはついにやってきた。
俺はこの瞬間に全てのアドレナリンを放出して、シャッターを切る。
疲れ切って他の事にはあれだけ無頓着だったのに、カメラだけは寒さで震える手を押さえながら必死でセッティング出来る自分が不思議だ。

御来光1 富士山1
左:ついに念願の御来光。しかし感動以上に疲れが… 右:9号5尺から麓方面。まだ登ってくる人が多い

しかし、この時の俺は写真を撮るのが精一杯で、御来光を特別な思いで見るという余裕が全くなかったのが正直なところだ。
確かに、「綺麗だな」とは思ったが、感動に打ちひしがれるとか、大自然に圧倒されるとかいう以前に、「疲れた」。これにつきる。

5時半に9合5尺を出発。ここまで来たら山頂を獲るしかない。
御来光のおかげで思わぬ大休止となったが、それで回復した体力は僅か10歩ほどで切れる。
やたら寒いくせに汗が出る。息が切れる。頭も痛くなってきた。これは高山病のせいか、それとも伝染性単核症のせいか?多分両方なんだろう。

9合6尺にきた辺りで、神田君から電話が入る。
「今どこですか?」という確認の電話だ。

フフフ、俺が8合目から下山してると思っているだろう。
甘ぇ、甘ぇよ!
俺はちゃんと御来光も堪能して、もうお前らの足下まできているんだぜ!

「9合6尺あたりにいる」俺はちょっと誇らしげに答えた。

「ス、スゲー!」という返事を期待していたのに、「ぇ~・・・」という気のない返事。
明らかに、「まだそんなとこかよ、このデクが!」という感じ。

・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

ク、クソォォォォォオオオオオオオオがぁぁぁぁぁ!!!!!


猛然と歩むも、やはり10歩もいけばヘタりこんでしまう。
もうダメだ。
頂上はもう目の前に見えているというのに。
手を伸ばせばすぐに届きそうな所にあるのに。


・・・・・こんなにも、こんなにも遠いのか、あそこは・・・。


データ収集中、色んなサイトで9合5尺から頂上までの辛さが書き連ねてあったが、これほどとは思わなかった。
今まで何人の先達がここまで来て倒れたのだろう?
これが登頂率50%の富士山の凄まじさというものなのだろうか?
こりゃ確かに、キリマンジャロ登ったイモトは凄いし、5大陸の高峰を制した田部井淳子は凄いし、エベレスト無酸素登頂したメスナーは物凄ぇ!

ただガムシャラに、そして闇雲に。9合5尺から1時間強、ついに山頂の鳥居をくぐった。
鳥居には荒沢さんと神田君が待っていてくれた。
達成感を感じたのも束の間、とにかく疲れがドパッと出て、頭の中は「休みたい」で塗り潰された。

3人ですぐそばにあった休憩所に入ると、猛烈な眠気に襲われる。
「ここで寝ないで下さい」と壁に貼られた貼紙を見ながら、俺の意識は突然途切れたのだった。



あ、ついに死んだ!と波乱を予感させる展開で、富士山④に続く。

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23:51:14 | 旅行に関する脳内 | トラックバック(0) | コメント(3) | page top↑
富士山② ~別れ~
2009 / 09 / 18 ( Fri )
富士山①の続きです。
まだ①を未読の方は、先にコチラをどうぞ。



もう一度、修正した計画を記しておこう。

まず、仕事を定時でさっさと終わらせシャワーを浴びる。
そして17時半に神田君の車で出発。高速道路のSAで夕食後、20時に富士山5合目着。
登山口は山頂まで最短ルートで知られる富士宮口だ。
高山病対策として5合目で1時間、仮眠とストレッチで時間を潰し、21時にアタック開始。
そして明け方5時に山頂でご来光を拝んだ後、下山をする。まさに完璧な計画だ。

その完璧な計画を嘲笑うように、我々が登山口に着いたのは予定よりもなぜか1時間遅れの21時。
あれ~?どこで1時間も時間をロスしたんだろう~?と3人で首をひねる。
空が近いから、多分、宇宙人にさらわれて1時間人体実験されていたに違いない。

まぁ、宇宙人にさらわれるのも想定の範囲内。1時間失ったところで問題はない。
こういう超常現象が起こっても大丈夫なように、時間はタップリ目の予定になっているのだ。
まずは高山病対策ということで、5合目の登山口で1時間の仮眠&体慣らし。
そしていよいよ22時にアタックを開始する。

富士山麓
暗闇でパチリ。まぁ雰囲気だけ・・・

漆黒の闇の中、ヘッドランプを灯すが、それに劣らぬ勢いで頭上では満点の星々が瞬いている。
そして眼下には富士宮市の夜景が輝いている。
目線の高さには少し欠けた月がやたら大きく見える。確かに富士宮登山口は標高2,500メートルだが、月と地球の距離を考えるとあってないような高さなのに、それでも地上で見る月とは明らかに違う。

これは-------------ロマンだ。漢字で書いて浪漫というやつだ。

凄いなぁ・・・と3人でしばし闇と光の饗宴を楽しむ。
事前の調べでは、この5合目登山口から次の6合目まで、20分で行くのが理想的なペースらしい。

とにかくゆっくりゆっくり。

富士山では空気が薄いので、一度疲れてしまうといくら休んでも回復出来ないという。
要するに、いかに疲れずに登るかがポイントであり、そうする為には社会党ばりの牛歩が一番というわけだ。

ゆっくりゆっくり。とにかくゆっくり。
スローライフってこんな感じ?っていうくらいスロー。スローの意味全然違うけど。

遅さで他のパーティーを圧倒しながら6合目に到着。
所要時間はジャスト20分だ。
おおー、スゲー。さすが元中距離選手の荒沢さんだ。ペース配分が絶妙だぜー!と意味なくハイテンションになっていると、同じくハイテンションな若者2人から写真を撮ってくれと頼まれた。

「えーっと、写真なら・・・ヨシオさんが一番だよね」と荒沢さんに振られる。
そのセリフを聞いて、「ヨシオさん!お願いします!ヨシオさんにしか頼めないッス!」とハイテンションで俺の名前を連呼する2人組。
う~む、そのノリ、完全に学生ですな。若いって羨ましい。

「ここ押すだけッス」とカメラを渡されるが、こんな暗闇でシャッター押すだけで撮れるかボケー!と叫びたい衝動に駆られる。
AF補助光をオンにして、2人の内の1人に補助光を顔面照射。フフフ、眩しかろう。
俺にはお前の若さが眩しいよ。

カシャリ。

撮れた写真をチェックして2人ともおおはしゃぎ。
「スゲー!まるでプロに撮ってもらったみたいだ!」「スゲーッス、ヨシオさん!」「ありがとうございます、ヨシオさん!」「また頼んます、ヨシオさん!」
ああ、いくらラリった奴らとはいえ、人からこんなに感謝されるなんていつ以来かしら・・・。

ペースメーカー荒沢を筆頭に黙々と牛歩を続ける我ら3人。
イライラした後続部隊に次々と抜かれる。
抜け抜け、愚民ども。最後に頂上で笑っているのは俺達だぜ。

実際、富士山の登頂率は50%程度だという。
5合目でザッと見渡した登山者の半分が途中で脱落しているというわけだ。
そしてその原因の多くが高山病。そしてそれを誘発するのが序盤での無駄な体力の浪費であったり、寝不足であったりするわけだ。  ん・・・寝不足って・・・?

ダラダラと疲れない牛歩を頑なに守りながら7合目到着。
何と6合目から50分もかかっている。

私見だが、実は富士山の一番のガンは、この「合目」のいい加減さにあるのではないかと思っている。
普通、「合」とはその山を歩く際、感覚的に10等分したものと定義される。
つまり、平坦な部分なら1号の距離は長くなるし、逆に傾斜が急だと距離は短くなる。

5合目から6号目が20分なら、この先、全ての合が20分間隔くらいで現れるのが普通なのだ。
だから、6合目まで行った時に、「何だ、富士山って余裕じゃん!」という勘違いボーイが続出し、ペース配分を間違ったり、軽装備で突入して9合あたりで撃沈してるんじゃないだろうか。

しかしワタクシは泣く子も黙るリサーチ番長である。
事前にありとあらゆる情報を集め本番に臨むのだ。
このスタンスは「テニスの王子様」でいうところの乾先輩。
つまり、データテニスならぬデータ登山が俺の真骨頂なのだ。

「この7合目の次は元祖7合目。8合目と勘違いして落胆しないように」
「頂上トイレの手洗いの水は小水を再利用したものだから、ゆめゆめ手を洗わないように」
「頂上まで休憩なしで5時間半が一般的だから、我々のペースでも十分間に合う」
「奴の歩行スピードでは、9合目で高山病とともに死ぬ」

フフフ、俺のデータ登山に死角はないぜ。
しかし、実際、更に1時間足らず歩いて、着いた先が8合目ではなく元祖7合目なのには、いいようのない怒りを覚える。
いとうあさこ流に言うと、「どうしてかな?南、30を過ぎたあたりから、イライラする。」

それでも牛歩戦術の為、ほとんど疲れは感じない。
3人とも「いける、いけるよ、ボクたち!」と士気も高い。

更に1時間歩いて8合目到着。
80%まで来たと考えると何となく合格点っぽい感じはするが、実は5合目からなので、実際まだ60%しか登っていないのが悲しいところだ。
ここで既に時刻は1時半を回った辺りだ。日の出までまだ3時間半もある。
3人とも「この勢いのまま行けそうだな」という楽観ムードが漂い、ここで少し大休止を取ることにした。

ベンチに腰掛けて数分、トイレに行こうと立ち上が--------れなかった。
体はさほど疲れを感じていないのに、なぜか足の付け根が強烈に痛くて上手く立てないのだ。

「は、はうぁ!」と口からヨダレを垂らしながら、足の付け根にある経絡秘孔をズブリと刺して無理矢理立つ。
立ったはいいが、そのまま歩けない俺をいぶかしげに見る神田君。何か珍獣でも見るような目つきになっている。

「どうしたんですか?」
「い、いや、ちょっと歩けないだけさ。・・・気にしないでくれ」

めっちゃ気になるセリフを残しながら、憤怒の勢いで何とかトイレまで行く。

トイレの前はもの凄い行列が出来ていた。
目の前には20名くらいの人達が並んでいてビビったが、係員らしき人が、「小の方は先に来てくださーい!」と叫んでいる。
それを聞いて手を挙げると、係員がこっちに来いと手招きして先にトイレを使わせてくれた。
え?じゃあ、目の前に並んでた20名は全員ウンコなのか?というもの凄い疑問。

トイレを済ませて外を出ると、目の前にオリオン座が浮かんでいた。
文字通り、目の前にある。目線の高さにオリオンがいるのだ。
もう、冬の星座の季節に突入したのだなぁ・・・。
しばし足の痛みを忘れて呆然と魅入っていると、その様子に気付いたオッサンが「オリオン座が綺麗だね」と声をかけてきた。
ああ、これがオッサンではなくオネーチャンだったらどんなにかロマンスだったろう。

オッサン曰く、何度も富士山には登っているが、これほど富士宮市の夜景が見え、上空の星が綺麗に瞬くのは初めてとの事。
どうやら相当、運の良い日らしい。
そう思うと、眼下に見える夜景の美しさが際立ってくる。
惜しむらくは装備の軽量化で三脚がないので、写真を撮れなかった事だろう。

2人と合流し、いよいよ出発タイム。
しかし、素でまともに立てもしないのに、大荷物を抱えて登山なんて到底無理。
俺は自分の限界を認めざるを得なかった。
もともと、大人ジャッジで引き返すことを前提にしてたし、荒沢さんにお金を使わせたのに山行自体が中止という寒い事態を避ける為に付き合いできたようなものだ。
俺はクールにカッコ良く、「どうやら俺はここまでのようだ。足が痛くて使い物にならない。悪いが俺を置いて先に行ってくれ。」と伝えた。

「あ、そうですか。それじゃ。」と神田君にクールに切り返される俺。
いや、それってクールっていうか単に冷たいんじゃない?
え?普通、もうちょっと別れを惜しんだり、病気を押してここまで来た俺の健闘を称えたりしないっすか?

そんな俺を尻目に、スタコラサッサと先に行く2人。取り残される俺。何かちょっぴり寂しい。

しかし大人ジャッジだ何だと言いながら、体は大人、中身は子供の俺である。
ハッキリ言って、ここまで来てるのに悔しいというのが正直な気持ちだ。
確かにまだ全体の60%しか歩いていないというのは、頭では理解しているのだが、「8合目」という響きが「もう少しよ・・・」と甘い囁きをしている。
しかも体力的にバテて死んでいるわけではなく、単に足の付け根が痛いだけというのも悔しさに拍車をかけている。

そしてこれが最重要ポイントだが・・・、我ら3人が今日、富士登山をしているという事が職場中に知れ渡っているのだ。
当然、休み明けに、「どうだった?」と聞かれるのは間違いない。
そんな時に、「いや~、ヨシオだけが途中でリタイアしたよ」なんて言われるのは心外だ。屈辱過ぎる。しかも登山経験者って扱いになってるし・・・。

男は死んでも引いてはいけない時があるが、今まさにこの瞬間がその時ではないだろうか?
将来、俺が偉い人間になって「その時、歴史が動いた」で紹介されるような事があれば、間違いなくこの瞬間が「その時」に選ばれるに違いない。

思えば、富士登山が職場に知れ渡った事で、これは地獄への片道切符になっていたのだ。



一体、何の歴史が動いたんだ?という疑問は無視して富士山③へ続きます。

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富士山① ~前哨戦~
2009 / 09 / 18 ( Fri )
皆さん、ご無沙汰です。
ついに念願の日本一へ挑戦してきました。
病気抱えたままという最悪のコンディションでしたが、果たして登頂はなったのでしょうか?
やたら長くなりそうなので、数回ほどに分けて書いていきます。



恐らく日本人なら誰でも漠然と「一度は登りたい」と思っている富士山。
ご多分に漏れず、俺もそう考えていた1人だ。
中学校の林間学校はお伊勢さんじゃなくて富士山周遊だったし。

ただ、登るにしても何だか1人は嫌だなぁという気はしていた。
富士山なんてめっちゃ観光地だし、みんなワイワイガヤガヤ気の知れた友達や家族と一緒だというのに、そんなところに1人でポツンと単独行なんて、ストイックでカッコイイというより、ただ友達がいないだけみたいじゃないか。
毛無山程度にマイナーな山ならロンリーウルフを気取るが、人の目のあるところでは途端にイヌのように群れたがる。そう、基本的に俺は寂しがり屋なのである。

そんなある日、職場の飲み会で、たまたま誰かが「富士山行ってみたいなぁ」と言ったのがきっかけだった。
「俺も」、「俺も」と、名乗りを挙げた2人のメンがいた。
まさか、こんな身近に同士がいようとは思いもしなかった。
こうして、俺とその2人の間でトントン拍子に話が進んだというわけだ。

とはいえ、その2人もまだまだノリで行きたいと思っている程度。
ここはやはり、本気で行きたいと考えている強力なリーダー(すなわち俺)が率先して音頭を取らなければ、飲み会の戯言で終わってしまったに違いない。

俺はせっかく見つけた獲物同士を手放すまいと、舌をナメナメズリズリ用意周到にプランを練り、2人のモチベーションを高めた。
最初は「頂上登れればいい」と言っていた2人を、いつの間にやら「御来光登山」に納得させ、更に登山道具を揃えさせた。洗脳準備は完璧だ!

ここらで、今回パーティーを組む事になった2人を紹介しておこう。いずれも仮名だ。

まず1人目は神田君。年齢25歳。
我が職場の若手の中では一番のホープで、頭はキレるし人の面倒見も良いナイスガイだ。
しかも恐ろしい事に、バトミントンでは社会人の全国大会出場常連者であり、いわゆる本物のアスリートである。
頭の中は、恐らくバトミントンと自分の肉体改造の事で大半が占められているアツいメンだ。
富士山に登る理由は、「静岡県民としてやっておかねばならないから」らしい。ちなみに登山経験はほぼゼロ。

そして2人目は荒沢さん。年齢40歳。
職場では俺と同様、中堅として常に前線で戦う中核社員である。
一見無口っぽい感じがするが、一度話し出すとその中にアツくたぎる何かを感じる。
それを証明するかのように、この富士登山では淡々と、しかし着実に道具を買い揃え、何と初登山でありながら7万円近いカネをかけて装備を整えたのだ。
俺はこういうアツいカネの使い方をするメンが大好きだ。
しかも、その雰囲気とは裏腹に、何と若い頃は陸上部の中距離ランナーだったらしく、今でも週に2回は河川敷を1時間ほど走り込んでいるらしい。

そして、この俺。
若い頃(小学校)はバリバリの卓球部で動体視力を鍛え、中学校では勝手にバスケ部と命名をした卓球部に所属し手首のスナップはピカ一。
学校の長距離マラソンではいつも後ろから5本の指に入るほどだ。
高校では帰宅部に所属し、大学では学生マージャン大会で屈指の成績を残したくらいのインドア派である。
カナダで大自然の魅力の虜になり、日本に帰ってからは登山をやると息巻いているが、登った山はロープウェイで楽勝の木曽駒ケ岳と、名も知られない毛無山の2つだけ。
そのくせ、装備は一流を揃えるという、まさに己の努力不足をカネで解決するというトンデモメンである。

オイオイ・・・・・、どう見てもおかしい人が1人混じってるよ・・・・・。
混じってるどころか、何かリーダー役気取っちゃってるよ、この人・・・・・。

どう見ても、俺が一番登山不適合者だろ!!!!!

ま、まぁ、体力面はともかく、俺がいなければこの富士登山は現実とならなかった。
もう一度言うが、俺のスペック以外、全ての準備は完璧だ。さあ、行くぜ!

というわけで、まず計画をお教えしよう。
今回狙うは御来光。すなわち富士山で見る日の出だ。
普通、御来光登山というと山小屋で一泊が普通なのだが、そこは超人スペックを備えた野郎3人組である。
我らの計画は、夜中から登り始める徹夜登山だ。
夜の21時に富士宮口を出発。明け方4時半過ぎの御来光を拝み、9時頃には下山という男らしい無茶な計画である。

計画当日の8月6日。
悲劇が俺を襲う。
何と、7月から続く微熱が消えないのだ。
ただの育児疲れと思っていたが、2週間経ってもずーーっと37.3℃程の微熱(と時折頭痛)が引かず、さすがにこの状態で徹夜登山は無理と判断。第1回目の計画は水泡に帰してしまう。

皆が失意に沈む中、血液検査の結果、ようやく俺の病気が判明した。
どうやら「伝染性単核症」という細菌感染らしい。
医者によると薬はないから、安静にして時間と体力で治せということなので、とにかく食っちゃ寝。
通勤は全て車。極力歩かないように気を使い、会社から帰ったらクーラーをつけてのんびり部屋にこもる。
夜は10時半にオヤスミして、朝は7時にオハヨーというお子ちゃま生活を1ヵ月続けた。


その結果------------------------超ナマッた身体に仕上がった。


せっかく今まで走り込んだりして鍛えた体はナヨナヨ。
何か超体力ないんですけどーー。
あのー、誰かリハビリ手伝ってくれませんかね~?

だからといって病気は全然良くならない。いつまでも同じような微熱が続いている。
しかも気が付けば、何ともう8月末だ。
実は富士山は一般的に8月でシーズンが終わり、色々な施設が閉鎖されてしまうのだ。

そしてここが大きなポイントだが、もし、富士登山断念という事になれば、俺が言い出しっぺで始めたのに、俺が原因で、荒沢さんに装備費の7万円をドブに捨てさせる格好になる。

・・・・・・・・寒い、これは寒い。

さすがにそれはマズイだろうってんで、病気治ってないけど行きましたよ、富士山。
体調悪いのに無理して登山して、死んだり降りられなくなったりする人いるじゃないですか?
ああいうの見ると、「バカだなぁ~」としか思わなかったんだけど、やっぱり大人になるとみんな色んな事情があるんですね。世の中、単純じゃないってつくづく思いましたよ。

まぁ、とはいえ、そこは大人。
いざという時は大人ジャッジで、マズイと思ったら無理をせず引き返すつもり。
とりあえず現地に行けば、俺がリタイアしても2人は頑張ってくれるでしょう。

こうして俺は病気も治ってないし熱も出ているのに、「形だけ」のつもりで富士山に向かうのだった。



富士山②へ続く

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なぁに、よくあることさ
2009 / 07 / 19 ( Sun )
お久しぶりです。
突然ですが、今回の話はちょっと汚いです。
食事中の方、下ネタが嫌いな方は今回は読まないことをオススメします。



日本に帰ったら登山をすると宣言していた俺。
何事も登山のトレーニングと考えれば、あらゆる事に対して自然とモチベーションもわく。
そして、それは子育てに関してもいかんなく発揮されている。

去年の8月に生を受けた俺の娘。
一ヶ月の早産にも関わらず、出産後は腹の中で育てなかった分をリカバーしようとひたすらオッパイを飲む。
そして順調にブクブクと膨れ上がり------------今や11kgだ。(生後11ヶ月)

はっきり言ってここまで巨大だと持ち運びには非常に不便なのだが、それはそれ。
登山のトレーニングだと思えば、11kgのウェイトはちょうどいいような気もする。
というわけで、週末の朝は娘を抱えて散歩に行くのが日課だ。
もちろん、トレーニングなのでベビーカーや抱っこ紐なんて道具は使わない。
己の上腕二頭筋だけを頼りに憤怒のパワーで持ち上げる。

「フオオオオオオオーーーーー!こいつはとんでもないブタだーーー!!!」と罵りながら娘の顔を見る。
「あ!こっち見てニッコリ笑ってる!」カワイイなぁ、ああ、カワイイなぁ
娘の手が俺のTシャツの裾をキュッと掴んでいる。
ああ、カワイイ、カワイイ・・・カワイ過ぎる。何か食べちゃいたいくらいカワイイ。ああ、チューしたいなぁ・・・。
朝っぱらから何とも言えないパワーとラブリーに包まれながら、この日、俺は1km程離れたマックスバリューへ散歩する事にした。

何だか酷い汗をかきながらマックスバリューに到着。
これはトレーニングというよりも、ただのMなんじゃないかという気がしてくる。
こんなんで、果たしてエベレストを制覇する事なんて出来るのだろうか。(←夢だけはデカい)

涼しい店内を見て回り、1時間も経った頃、そろそろ戻ることにした。
嫁も育児からちょっと解放されて気も休まったろうし、嫁がいないといつ何時、娘がギャーギャー泣くか分からないし、ここら辺が限度だろう。

快調に家路を行く。
しかし、同じく快腸すぎた俺のボディーは、しばらくして警告を発し始めた。

昨夜食べたアレか、それとも今朝食べたナニかは知らないが、体内の小宇宙でエントロピーを増大させた異物が、今まさに肛門という名のホワイトホールから飛び出し、新たな宇宙の幕開け、すなわちビッグバンを起さんとしているのだ。
コスモを爆発させることで超人的なパワーを得る聖闘士と違い、俺のコスモは絶対に爆発させちゃあいけないのである。爆発するまでは超人的なパワーが出ることもあるが、爆発したが最後、多分全てが終わる。

ええい、まどろっこしい言い方は避けよう。
要するに俺はうんこがしたいのだ。

俺は今、マックスバリューから300m、家まで700mほどのポイントにいる。
通常で考えれば、全てをかなぐり捨ててマックスバリューへ走ればいいのだが、今の俺にその選択肢はない。
なぜなら、腕の中に最愛の娘がいるのである。
ベビーカーも何もない状態で、娘を便所の外に置き去りにし、自分だけがコスモを爆発させることなど不可能だ。

「北斗の拳」で「俺のオンナだぁ~!」と言いながら、幼女(自分の娘)を担ぎ出してただのロリコンキャラに成り下がったアイン。
しかし、今の俺にはヤツの気持ちが痛いほどによく分かる。
俺は自分のオンナをほっぽり出してウンコ出来るほど器用な男じゃないのだ。
男には死んでも進まなきゃいけない時もある。そしてそれが今まさにその時なのだ。
まさか、自分の死に場所がこんなところで突然やってくるとは思わなかったが、こうなれば腹を括るだけだ。
もっとも、今の俺の腹に、実際に何かを括られたら、その瞬間に爆発だが。

瀕死の思いで200mほど進む。
ああ、認めよう。
実は何だかんだ言って、今までの経験上、何とか家までもつんじゃないかと考えてたんだ。
でも大きな計算間違いがあったんだ。
俺は11kgの娘を抱えているって事を、あの非常事態ですっかり忘れていたんだ。
肛門の括約筋が耐えられるのは50kgまで。(友人談)
しかし、それはあくまで体の全パワーを肛門に集中した場合であって、上腕二頭筋にかなりのパワーを削がれている今、ホワイトホールの締め付けが急激に緩くなっている気がする。

「も、もれる・・・?!」

大きな計算間違いをしたものの、もともとはNASAも真っ青と謳われた俺の脳内電子計算機。
最速で最良のプランを叩き出す。

俺のプランはこうだ。
まず、不幸中の幸いとして、俺の目の前にセブンイレブンがある。
そこでトイレを借りればいいのだが、その場合、マックスバリューと同じく娘をどうにかしないといけない。
そもそも俺が1人だからマズイのであって、嫁に来てもらえばいいのだ。

俺は憤怒のパワーで携帯電話を取り出すと、速攻で嫁に電話した。
リダイヤルボタン一発でかけられて良かった。わざわざ昨日、帰るコールを入れてて良かった。
自分が愛妻家であって本当に良かったと思う。

しかし、そんな俺を嘲笑うように携帯に出ない嫁。役立たずめ!!
携帯がダメなら家の固定電話に電話だ。どうせバックにマナーモードで入れっぱなしとかそんなんだろう。

俺は世界最速のタッチで固定電話の番号をプッシュした。
ちゃんと電話番号を覚えてて良かった。思えば、図書館で電話番号をすぐに書けずに恥ずかしい思いをしたから、ちゃんと覚え直したんだ。
本好きな俺、バンザイ!

しかし嫁はその電話さえ華麗にスルー。
まさかここでスルーとは思いもよらなかった。

ここで俺は大きな決断を迫られた。
セブンイレブンに駆け込むか、あくまで決死の家路を歩むのか。

人間、アインのように格好良く最期を迎えられれば良い。
俺も最期の時はあのように逝きたいと願う。
しかし、今回のケースでの最期は、厳密な意味での最期=死ではなく、その後も汚辱にまみれた人生が続くのである。
俺は娘を抱えたままウンコをおもらししたという「ウンコ野郎」のレッテルを貼られ、娘からは嫌われ、嫁には逃げられるという、死よりも辛い現実が待っている予感がする。

今度はなぜか、「不思議の海のナディア」で、航海士エーコーさんの最期を思い出した。
毒ガスが充満する部屋に取り残され、最期を迎えるエーコーさん。
部屋の外で、他の仲間と最後の通信をしながら、カッコいいセリフを残しそのまま逝こうとするが、最後の最後、いよいよという瞬間に、「俺はまだ死にたくないんだー!他にやりたい事もいっぱいあるんだー!誰か助けてくれー!」とわめき散らして死ぬのである。
「人間、いかに格好良く死のうとしても、現実はこういうもんだよ」というメッセージがありありと込められているシーンだった。

そう、そして今の俺は明らかにアインじゃなく、エーコーさんなのだ。
いかに格好悪くても、勝てば官軍。
娘には悪いが、パパがコスモを爆発させる瞬間を見てもらうとしよう。

俺はもの凄い勢いでセブンイレブンに駆け込む。
幸い、店員2名はレジにかかりきりで、こちらの様子に気付いた様子はない。
ようし、客のお前たち。いい目くらましになってくれた。感謝するぞ。

トイレに飛び込む。
こちらも「使用中」ではなかった。良かった。神様、ありがとう!

「♂」マークのついた扉を開ける。
しかし、中にあったのは野郎用の便器のみで、これはすなわちウンコ出来ないやつである。
一体、この店の店長は何を考えてこういう便器を設置したのか意味不明だ。
これはすなわち、野郎にはウンコをするなという事だろうか?そんな人権蹂躙が許されて良いのだろうか?

この店での買い物は今後ボイコットしようと決断しながら、逡巡の後、「♀」マークの扉を開ける。
中には期待通りの形をした便器が妖艶な笑みを浮かべている。
まさか人生で女性用トイレに入るという変態行為を余儀なくされる事があろうとは思わなかったが、幼女がパパと一緒に男子用トイレに入ってくることはよくあるし、これはその逆バージョンだと思い込めば、そうおかしなことでもないような気がしてくるから不思議だ。

素早く鍵を閉めズボンを脱ぐ。
もちろん、左手は娘を抱えているから、全部右腕一本でだ。
男は自分の腕一つで生きていけとよく教えられたが、こういうことだったのかと今更ながら思い知る。

そして娘を抱えたまま、ついに壮大なビッグバンが-----------------という瞬間、なぜか扉が「コンコン」とノックされる。

「ええええええええーーーーーーー!?」と叫びたい衝動に駆られる。
だって、今、この瞬間にブビビビビィ~~~!なんて音が出ようもんなら、外の人に丸わかりというか、何か恥ずかしいじゃないか。
「ウオオオオ!!!出すに出せないぜーー!辛いぜーーー!」と絶望する。
しかし、そんな俺の魂の叫びに呼応するように、今まで大人しかった娘が「アウ、アウ!」と叫び出す。

そう、それは何というかもう、以心伝心というか、娘がパパのピンチを救おうと健気に頑張っているというか・・・・・。
俺は娘の叫び声を利用し、素早く脱糞を済ませると信じられないスピードでケツを拭き、パンツを蒸着する。

さて、後は最後の仕上げが残っている。
俺はさも責任を娘になすりつけるように、「もういいか?」とデカい声で声をかける。
これはもちろん、外にいる人に、「俺は自分がウンコしたんじゃないよ。娘がトイレしたいから、やむなく一緒に入っているんですよ」というアピールである。

「本当にもういいのか?よし、じゃあ出ようか!」と、やたらデカい声を張り上げダメ押ししておく。
そして扉を開けると、やはり女の人が外で待っていた。
別に男の俺が出てきた事に驚いている様子もなく、一礼してそそくさと入っていく。

フフフ、まさか俺がウンコしていたとは思うまい・・・。甘いんだよ!!
多少、ニオイが残っているかもしれないが、俺はまた最後に娘に「もういいよね?」と声をかけて、そそくさとトイレを出たのだった。

九死に一生を得、何とか家に帰り着く。
嫁はやはり家にいたが、部屋の掃除をしてて電話の音に全く気付かなかったらしい。
だから俺が娘を連れて外にいく時ぐらい、家事は忘れてゆっくり休んでろとあれほど・・・。

嫁に今日の出来事を自慢気に語ってみる。
娘を抱えてのトイレというのは、まさにウンコ男臭くて武勇伝にはピッタリである。

それを笑いながら聞いていた嫁が一言。

「あ~、ホント、子供を抱えながらのトイレって大変よねぇ~。アタシも買い物行った時とか、困るけどそれ以外やりようもないしよくやるわ~」

俺にとっては一大冒険叙事詩だったワケだが、どうやら嫁にとっては日常茶飯事だったようだ。
やはり嫁には頭が上がらないなぁと思い知った出来事だった。



皆さん、この手の話は好きですか?

カタカタ2 P5180632どあっぷ

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